主/副の概念は、マリアージュの方程式にあてはまります。酒が主体で料理が副えか、料理が主体で酒が副えか。バーはお酒を嗜む場だから、当然お酒が主体になりますが、少しいびつで未熟なものほど、組み合わせた時にお互いを引き立て合う面白さが現われるのは面白いことです。
元々 私はお酒を飲むときにアテが要らない人間ですが、料理を頂く時には、常にお酒のことを考えていました。ふとしたことで自己流ながらチョコレートを作るようになったその頃、洋酒の世界で ある変化の波が顕著になりました。ライト傾向の止まらない進行と、ブームに依るウイスキーの大きな凋落です。
美味しいものに出会うことが難しくなり、不釣り合いの出費を求められることが増えてくる。ならば、自分でその満足感を補う楽しみ方を工夫できないだろうか？ 未熟でいびつなものには補完の余地がある。そして これまではピュアに楽しむべきと括ったものを、かえって気軽な感覚で何かと合わせてみることに抵抗が少なくなる。これがお酒にチョコレートを添えて提供しようと考えた契機です。
美味しいものと出会うとき、人は幸福に包まれると思います。大きな喜びであれ小さな喜びであれ、それが心と身体の「健康」に悪いはずがありません。
お酒の未来に諦めがあるわけではありません。チョコレートについても素晴らしいものが作りたい。物事を柔軟に受け止め、美味しいということを考え続ける、まず私自身にとって長い探求の旅だと考えています。
では、何を美味しいと感じるか、それは好みもあって千差万別。堅苦しいことは抜きにして、皆さんには自由に楽しんでいただき、感想を聞かせていただけたなら幸いです。それが私の「健康」に悪いはずがありません。 - 店主敬白
それはショコラなり。」
ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン
(1755-1826)